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2005年 08月 09日
非常に残念な結果になった。亀井静香氏など国民の聞きたいことしか言わない無責任な発言を繰り返す政治家が支持される世の中にさすがに頭にきた。政策はマジックじゃないんだから、何かを達成しようとしたらコストもかかるしいいところ取りはできないんだ。一般人で今回の事件の意味をきちんと把握できている人があまりに少ないのでここで整理しておこうと思う。
緊急号外として書き下ろしてみました。長いですが是非多くの人に読んでいただければと思います。 産業として成立していない日本の銀行業: 全国銀行全ての償却前業務損益合計から不良債権償却費合計を引いた業務損益を見ると、過去10年以上にわたり(厳密には1993年より)、毎年平均3兆円以上のマイナスになる。このことは毎年3兆円も政府によるミルク補給が無いと銀行業界は産業として成り立ってきていないことを意味している。全国銀行全ての総資産合計は約800兆円。一方郵政公社の郵便貯金の総資産は約300兆円。銀行業界のマーケットシェアチャートを作るとしたらマーケットシェア約30%を保有する一大銀行が郵政公社ということになる。資産規模ではシティバンクなどを抜いて断トツ世界一の銀行だ。日本の銀行業界は最大銀行である郵政公社が国の優遇を受けており(具体的には法人税、固定資産税、事業税等が免除されていると共に、預金保険機構への保険料を払ってなくても預金は国によって完全保証されている)、民間銀行は不利な条件の中競争しているわけである。 それでも日本経済が高成長を続けていた90年ごろまでは良かったが、ゼロ%成長に突入した90年代問題が表面化し、残りの民間銀行部門も毎年3兆円もの政府からのミルク補給を受ける産業に陥ってしまったわけである。要は郵政公社も補助金漬け、民間銀行部門も補助金漬けで銀行業界全体としてロスメイキングに10年以上なっているのが日本の銀行業界だ。 不良債権問題: バブル崩壊後の銀行の不良債権の増加の原因は、単純に言うと民間企業の返済能力の低下である。これは以前ブログでも触れたとおり、バブル崩壊後、前提となる経済成長率が一気になくなってしまったために、80年代の高い負債比率をサポートできる将来キャッシュフローが無くなり、返済スケジュールが成り立たなくなったわけである。企業が返済できなくなった借入金は、銀行側の不良債権増加につながった。しかも想定していた将来キャッシュフローというのが、企業の事業から出てくるキャッシュフローではなく、不動産などの価値の上昇見込みだったりしたことで、不動産価格の下落と共に自動的に貸出は不良債権化してしまった。 その後、銀行側も不動産価格に依存せず、企業の事業そのものからの将来キャッシュフローを審査して貸し出す体制に変え、銀行経営そして貸出の健全化を計ろうとした。これが俗に言う「貸し渋り」だ。本業が利益をきちんと上げておらず、貸しても10年以上返ってくる見込みの無い(通常欧米での銀行貸出の返済期限は5年)企業が日本に数多く存在したため、突然銀行に健全経営されたら倒産する企業が続出するということで、簡単に言うと銀行はそんな一気に健全化するな、という政治判断になった。これが構造改革の「ソフトランディング」である。ハードランディング派は、日本経済の素早い回復を唱え、中小企業が一度に倒産した場合に備え失業者の手当てを厚くしたり、政府援助などの組合せによるセイフティーネットの拡充と共に銀行の健全化(=貸し渋りの許容)を一気に進めようとしたが、政治の場で敗れた。 すぐに銀行が健全化できなければ当然銀行経営は悪化するわけだが、そのコストを政府が負担するという形で銀行に公的資金が注入される。ただ、確かに銀行が放漫経営に陥っていたのは確かで批判されるべき点が多かったためにマスコミ・政治家による銀行批判が行われた。議論の後、公的資金注入と共に健全化計画の提出が義務付けられた。この内容は銀行は収益を重視して経営しなければならないが、同時に貸出目標設定(=設定された金額を達成するには業績が悪い会社にも融資しなければいけなくなった)されるという相反する目標を課せられた。新生銀行やあおぞら銀行が自行の収益改善を重視しすぎたために(採算の取れない・悪い企業への貸出を極力避けた)健全化計画で設定された貸出目標額を達成できず行政指導が何度も行われたのを覚えている人もいることだろう。 つまり、公的資金の注入で結果として何が行われたかというと、銀行を通じた企業部門に対する補助金だ。実質的には国民に金をばら撒いたのと同じだが、そんなことは現代社会では実現できないので、資金の配分経路を変えたということだ。ついでに補足しておくと2000年前後以降の不良債権はバブル期の遺産ではなく、その後新しく発生した不良債権だ。それは銀行セクターが低収益産業に陥っているという結果でもある。 政府の借金の拡大と無責任な政治家: 90年代後半から銀行部門に対する公的資金と共に大型景気回復減税など様々な財政大盤振る舞いが行われた。当時の議論では将来経済が回復してきた段階で増税することが合意されたが、いったん政府が国債をたくさん刷って借金を増やして金を捻出した後、どうやって政府の借金を返すかは議論の対象から外れていく。無責任な政治家は、貸渋り反対、銀行に公的資金注入したことを口実に銀行経営大批判、大型減税賛成だけを掲げ、当初合意していたような増税は絶対反対、最近ではそれに加えて銀行部門の最も重要な問題であった郵政民営化大反対、そう言っているわけである。財政悪化が激しいことが年金制度の維持すら難しくしてきており、様々なところに影響が伝播している。一連の構造改革のソフトランディングのために費やされた政府支出は結果として銀行部門の不良債権の政府への付替えと政府の借金の拡大につながった。要はこした無責任な政治家は国民の耳に響きが良いことしか賛成しておらず、増税や郵政民営化といった本来銀行部門の健全化、日本経済の持続的成長にとってはペアで考えなければならないが国民に負担を強いることについては無視しているわけである。 責任感のある政治家は当然に国民の負担を強いる事柄についてもきちんと実行しようとしているが、無責任な政治家は意図的に無視しているのか、それともそもそも全く無知なのか大反対一筋である。経済回復にマジックは無いわけで、経済政策は薬と同じで、良薬ほど苦いけれどもより効果があるものなのに、薬の苦味は嫌だけれど効用だけ実現しましょう、と無責任な発言をしているに過ぎない。その急先鋒が亀井静香氏のような政治家だ。「断固反対」「無理に通すなら受けて立つ」といった威勢の良い大衆受けする発言だけが目立つ。そして彼らが主張するような世界が実現できると信じ込んでいる大衆の無知も見ていて悲しくなってくる。 今の日本で政治家として当選したいなら、無責任な発言をしていれば当選するだろう。国民に負担を強いる話は一切無視して、耳に心地よい主張だけしていればいい。減税支持、消費税増税反対、郵政民営化反対などなど。そんなことばかり言っている政治家は本当に聞いていてあきれてくる。日本のことを本当に考えていて責任ある発言をする政治家が割を食う世の中になってしまっている。 今回の郵政民営化法案の意義: 実際問題としては、今回議案に上がっていた郵政民営化法案はどちらかというと三事業の区分を明確にするというレベルのものであって本格的な民営化からは程遠かった。本来最もインパクトがある郵政改革は、郵便局が集めた貯金の運用方針を郵政公社が独自に決めて運用できるようにすることだが、今回の民営化法案はそこまで踏み込んでいない。結局は貯金の運用先が国債や財投にほぼ限定されるという現状から変化はない。あくまで政府のお財布として使われるという点には代わりが無かった。 そうしたところで、今回の一連の郵政民営化のポイントは、ちょっとでも郵政民営化の改革を進める気がある、つまりは日本の金融部門そして引いては企業と金融の健全な関係の確立と日本経済の再生を進める気がある政治家が誰で、利権と票集めにしか頭が回っていない無責任な政治家が誰かを見極める踏み絵になったと個人的には見ている。ただ、残念ながらこの一連の金融問題に関するマスコミ、大衆の理解があまりに浅かったためと、無責任な政治家がはびこっていたために、国会できちんと議論などしているといつまで経っても実現できないという雰囲気になってしまい、今回の意味づけがきちんと理解できないままに、単純に小泉vs反小泉と図式だけがクローズアップされてしまった。 最終的に完全な郵政民営化が実現されないと、冒頭で触れた日本の銀行業界が抱える構造的問題は解決されないし、ミルク補給を毎年受ける構図も直らないし、政府の財政の健全化も実現できない。これは日本経済の根本的な構造改革・持続的な経済成長が実現できないことを意味する。 本来本当に採算が取れない過疎地へのサービスなどが重要なら、その採算が取れないけれど社会的に必要な事業と、儲かる本業に分けて、採算が取れない部分については、これは社会的に必要だから政府が補助を出すと明確にした方が望ましい。あるいは単純に雇用維持の問題であれば、郵政民営化というのは政府の決定であり、日本全体の厚生の増大に寄与する政策で、これによって犠牲になった失業する人がいるならば、退役軍人のように一生政府が面倒見ます、ということで構造改革のコストとして明確にすればいいのだ。こんなことが理由で郵政民営化反対なんてのは認められない。 郵政民営化の次のターゲット: 金融再生のための郵政公社の次のターゲットは農林中央金庫を頂点とする全国農業林業金融組織の改革だ。これも郵政と同じようにいわゆる農協業務、保険業務、銀行業務の3事業を行っている。ディスクローズはされていないが農協業務と保険業務は赤字で銀行業務でカバーしていると言われている。住専問題などで最もアグレッシブだった農林中金は、大手銀行各行が母体行責任として損失負担をさせられたのに対し、簿価での返済を確保した。当然に政治的配慮が働いたわけだが、他の2事業が赤字なために銀行業で一発逆転ギャンブル的な行動を取ろうとする誘因が常に存在する組織としてのインセンティブスキームを持っている。 ただ、これも郵政と同じく自民党一部政治家の大票田となっている日本経済の最も暗い部分にメスを入れる話となる。農林水産大臣の島村氏が反対表明したのも、自身の基盤が郵政族と同じ類のものだと感じていたためと思われる。日本のこうした経済改革が遅々として進まないのは、有権者の一票の格差が大きく、田舎の人の1票は東京の人の3・4票に相当するということで、日本国の国益が歪められて形成されることに根本的原因がある。 衆院総選挙に向けて: 小泉首相には是非勝って欲しい、というのが率直な気持ちである。郵政族・農水族と正面から戦って生き残った政治家はこれまでいないし、小泉首相の断固たるリーダーシップは確かに頼もしい。強引な面は否めないが、しかし責任ある政策を実行しようとしているその志は近年稀だ。しかも、今日本経済はちょうど景気回復局面にあり(構造的問題は解決していないが、小幅の景気変動は繰り返しておりその中での景気回復局面)、この機会を逃すとまた今後数年は改革の話すらできなくなってしまうということになりかねない。郵政民営化もそうだし、これまでにつぎ込んだ公的資金の増税による回収といった苦渋を強いられる政策にしても実行する機会を失う。こうした政治家として嘘や夢物語を語らない、現実的な苦渋を伴う政策を主張し実行するというのは、残念ながら選挙では受けが悪い。もしこれで小泉首相が負けることがあれば、常に私が危惧している、日本は何も改革ができずこのままじわじわ弱体化し続け、それでも基礎体力があるから当分の間危機には達さず、大国の終焉を今後20年間見続けることになるということが実際になってしまうかもしれない。このブログを読んだ方々には少なくとも甘い話しかない政策というのは存在しないんだということを頭に入れて選挙に望んで欲しい。 人気blogランキングへ by mondenlondon | 2005-08-09 12:06 | 日本経済
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