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2005年 09月 09日
NYのヘッジファンドで働く友人が言っていた一言が非常に印象に残った。 “If you feel like you are missing a boat, don’t worry about it because you are not. Everyone is actually only swimming around the boat and struggling hard not to get drowned.” 訳:(ヘッジファンドという勝ち)船に乗り遅れてるんじゃないかと思っているとしたら、そんなこと気にしなくていいよ。全くそんなことはないから。(ヘッジファンド業界の人間は)みんなただ単にその船の周りを泳いでいるだけで、溺れちゃわないようにするだけで必死だから。 ヘッジファンド業界は投資銀行業界以上にコンペティティブで生き残るのも難しい。ミーハーな気持ちで皆が興味を持っているからとか、死ぬほど給料もらっている人がいるからといった理由だけでやろうと思うなら本気でやめた方がいい。9割方失敗している。頭が良かったり知識があるだけでなく(それよりもむしろ)トレーディングのセンスが重要だ。年齢も学歴もリーダーシップもチームワークもゴマすりも全く関係ない世界に放り込まれるので、プライドも経験も年齢も上下関係もクソもない、儲けたものが勝ち、そんな究極の世界だ。 生のヘッジファンドを伝えるために何人か今回NYで会ったヘッジファンドで生きる人々について書いておこうと思う。恐らく普通に説明するよりも直接的にどんな世界でどんな人々が働いているのか分かるだろう。 一人目は、いわゆる典型的なロング・ショート投資を行うヘッジファンドに務めるアナリスト。全米トップ10の名門大学の学部卒後すぐに投資部隊100名以上抱える比較的大手のヘッジファンドに就職した入社4年目の25歳。4年も生き残っているのでそれなりに平均以上には頑張れているはずだ。すでに自分のポジションを持って投資しているが、給料の支払われ方がヘッジファンド業界の中でも際立って実力主義で、月給から完全業績連動給。彼の去年の実績は年収約3000万円、今年は初め3ヶ月に比較的うまくリターンを上げたので3ヶ月で約2000万円もらったが、その後5ヶ月間は給料ゼロ。ロスを出しているからだそうだ。投資のパフォーマンスがネットで勝ち越しのプラスになるまで次の月給は支払われず、年末の時点で負け越していれば首になると言っていた。すぐに大きくカンバックしてやるから大丈夫だよ、と笑ってごまかしていたが、死ぬほど毎日プレッシャーを感じているのは見ていて明らかだった。非常に慎ましやかな生活をしていて、正直日本企業入社1・2年目ぐらいな生活水準で暮らしている。死ぬほど様々な投資関係の本を読み漁って勉強している。一寸先は闇といった生活を送っているからだろう。首になったらMBAでも行くしかないかなと言っていた。なぜなら首になるということはヘッジファンドではもうやっていけないという烙印を押されたことに等しいし、彼の場合、ヘッジファンド以外の経験がないので他の業種にも転職しづらいからだ。 二人目は、同じヘッジファンドに務める27歳のスイス人。大手投資銀行のスイス及びNYオフィスの投資銀行部で計3年働いた後、ヘッジファンド業界に転身。年収6-7000万円をコンスタントに稼ぎ出す稼ぎ頭だ。同じファンドの20代の若手50人ぐらいのうちで彼が断トツのトップパフォーマンスを上げているらしい。そんな彼もあと2年もこのヘッジファンド業界にいつづけたらもはや他に行く先はなくなるな、なんてつぶやいていた。どの仕事もそうだろうが他の職種に転職するというのはなかなか容易ではない。ましてや30歳近くなるとなおさらだ。失うものも多い。 三人目は、履歴書的には華麗な転職暦を持つ29歳。米屈指のH大学部卒で、インターネットベンチャーで2年働いた後、大手投資銀行の投資銀行部でアナリストとして3年働き、その後リスクアーブ投資(merger arbitrageなどrisk arbitrage専門)を行うヘッジファンドに転職。残念ながら彼の勤めるファンドのパフォーマンスは芳しくなく、去年はマイナスかぎりぎりフラットといったパフォーマンス、今年は10%を超えているが数年前の設立当初数百億円あったファンドサイズは今や100億円以下に減っている。要はバスト寸前とも言っていい状態になっている。彼の去年の年収は1000万円に満たない。前職からでもかなりの給料ダウンだ。本来であれば他のファンドに転職したいようだが、パフォーマンスが良いファンドで働いた経験がないとなかなか他の好調なファンドでの転職も難しいし、投資スタイルの違うファンドへの転職ははっきりいって全く違う生き物といってもいいぐらいなので難しく、真剣にMBAに行くことを考え始めている。その背景には、MBAに行って良いコネクションを得ることに加え、もう一度やり直したいという思いがあるからだろう。 四人目は、元大手投資銀行の投資銀行部のリストラクチャリンググループのヴァイスプレジテント。投資銀行業界の中ではここのリストラクチャリンググループはかなり有名だ。学部はウェストポイント出身で米軍にヘリコプターパイロットとして勤務後、某トップスクールMBA卒。数々の全米の超有名破綻案件のアドバイザリー経験を持つ。現在30半ばでディストレスド・ファンドのアナリストとして務めて2年目。彼のディストレスド投資に関する知識は半端ないし、アメリカの倒産プロセスやらあらゆるリストラに精通している。そのままIBにいれば間違いなくもっと活躍できた人物だ。しかし、トレーディングの経験はヘッジファンドに入ってから。五人目となるが、そんな彼が勤めるファンドのポートフォリオマネジャーは若干28歳。28歳のPMは彼ともう一人弁護士出身の30代の2人のアナリストに支えられている。3人で7億5千万ドル(約750億円)のファンドを切り盛りしている。28歳のPMは投資銀行の投資銀行部のアナリストを3年やった後、ヘッジファンドに転職し、めきめきと頭角を現して大手ヘッジファンド傘下のこのファンドを任されている。28歳のPMの年収は推定数億円、2人のアナリストは1500-2000万円程度。この元投資銀行ヴァイスプレジデントの年収は3分の1以下になったと言っていた。ウェストポイント出身の元軍人で投資銀行のIB出身らしく、人当たりの良く、真摯で知的、リーダーシップに溢れ体格も良い彼は、まさに文武両道といった感じだが、残念ながらそうした要素はヘッジファンドでは全く役に立たないんだということをまざまざと見せつけられた気がした。 六人目は、完全に独立して自分のファンドを立ち上げた29歳。大手投資銀行の投資銀行部でアナリストとして3年働いた後、アクティビスト投資の有名ヘッジファンドに転職。このファンドのヘッドは狂ったように攻撃的かつ毒舌なことで有名なスーパーヘッジファンドマネジャー。初めの2年は全然うまくいかなかったそうだが、あらゆることを教え込まれ3年目ぐらいからめきめき稼ぎ出し、年収1億円を超える。4年目に独立したいとヘッドに伝え、彼の全面サポートを得て、色々な投資家の紹介を受けたりして、見事今年3億ドル(300億円)の自分のヘッジファンドを設立。セントラクパーク沿いの高級マンションも購入。現在意気揚々とまさに絶好調にある。彼の元のファンドのヘッドがなぜそこまでサポートしたかは、彼を知る人間に言わせると、もう既に死ぬほど儲けているから、「あのファンドは昔俺が手取り足取り教えてやった奴がやってて、俺があいつのためにファンドを作ってやったんだ」なんて言いたいためにそこまでやってくれたんじゃないのと言っていたが。まあ、そんなサポートを受けるほど彼に儲けさせてあげたお返しといった要素が高かったんだと思うが。 上記の何人かの例を見れば明らかのように、肩書きやら学歴なんてはっきりいって全く関係ない完全な実力主義世界がヘッジファンドにはあるわけだ。MBAが役に立たないとは言わないがMBAの知識がすぐ生かせるとかそんな次元の話じゃないし、社内政治やらリーダーシップやら人徳やらそんなことも全く関係ない。ものすごく優秀な人間が集まっているし、ヘッジファンドに入るだけでも普通は大変だろうが、その中での生き残り競争は想像を絶するほど過酷だ。正直、一寸先は完全な闇の中、手探りで必死に生きている人々の方が圧倒的に多い。もちろん信じられないような成功を若いうちに手にしている人々もいるが、ほんの数%と言っていい。皆がいずれはポートフォリオマネジャーになる、あるいは自分のファンドを立ち上げたいと頑張っているが、ほとんどの人は実現できていない。ほぼ全ての人は実現できない、に同義語に等しいぐらい厳しい。今のヘッジファンドに比べたらIBやPEでさえミドルリスク・ミドルリターンに見えてくる。 2年前まではNYのヘッジファンドもブームに乗って儲けまくったファンドも多かったらしいが、ここに来て数が増えすぎたのとマーケットのパフォーマンスの低さから一気に冷え込んできている。また、NYのヘッジファンド業界は、東京・ロンドンと比べてもこの1・2年で一気に競争が厳しくなったという印象を持った。ターンオーバー(人間の入れ替わり)は3年経てば75%は首になり、100人のファンドにいれば3年で100人入れ替わるぐらい回転スピードは速い。成功している人のことばかりが報じられがちなヘッジファンド業界だが、儲けてる人がいっぱいいるらしいから俺もやりたい、なんてミーハーな気持ちで考えているなら止めといた方がいい。そんな程度のモチベーションじゃ絶対成功しないから。英語力が心配だったりしたらそもそもNYのヘッジファンドなんか止めた方がいい。ただでさえ厳しいのに英語のハンデがあればなおさらだ。それはIBも同じだけど。 今回、ものすごく多くのヘッジファンドの人間と会って、彼らと狂ったように毎晩飲みまくって大いに語り合い、実に充実したNYでの1週間となった。もう胃が壊れそう。NYの流行スポットはほとんど全部連れ回されたんじゃないかな。結構本気でNY住むのも楽しいかも、と思わせられた。NYのヘッジファンドで仕事を見つけるのは十分可能だと言うことが分かったが、あの異常なリスクの中に身を晒すには、よほどの覚悟と自分のバックグラウンドにぴったり来てかつ良い指導者がいるファンドを見つけることが重要だ。今回はもちろんヘッジファンド以外にもバンカーの奴らや色々な人間と会い、大いに最先端NYを感じた滞在となった(そういえばコロンビア大MBAのホームパーティも何件目かはしごして飲んでいる時に一瞬行きました。日本人はいなかったですが)。ヘッジファンドとPEがどのような局面で競合しているかも良く分かった。日本に行くときは絶対連絡するから、大いに日本で遊ぼうと約束して最後は皆と別れた。年末年始にNYヘッジファンド野郎らの日本ツアーでも企画しないといけなくなるかもしれない(笑)。 人気blogランキングへ
by mondenlondon
| 2005-09-09 00:34
| 買収ファンド・ヘッジファンド
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